「…あれ?翔、トマトジュースなんか好きだったか?」


もう一つのグラスを掴もうとした哲也さんが俺の傍にあるトマトジュースを見て不思議そうに問いかける。


「好きな訳ねぇし。哲也さんの嫁が飲めっつって置いてんの。強制的に」

「強制的?」

「肝臓にいいとかなんとかで」

「あー…沙世から聞いてたわ。身体よくないって」

「よくねぇ事はないんすけど、ただの飲みすぎっすよ」

「まぁ酒飲む仕事だと言え、薬と酒に溺れてしまったら俺の歳になると堪えるぞ。気をつけねぇと」

「そうっすよねぇ…」

「――…そうだよぉ。翔くん気をつけてね。はい、今日は特別ノンアルだよ」


話の間に入ってきた沙世さんはテーブルの上にノンアルコールの缶を置く。


「ノンアルかよ、」


思わずこぼれ落ちる言葉に俺は苦笑いになる。


「何言ってんの。有難いと思いなさいよ。今日は特別だから。今度はないわよ」

「今度どころかここに来て一度も酒なんか出た事ねぇし」

「文句言わないの」

「はい」

「ちょっと片付けてくるから。楽しくやってて。たまには男同士の会話も必要でしょ?ね、翔くん?」


そう言って慌ただしく動く沙世さんが姿を消すと哲也さんが料理を口に運びながらクスクス笑い出す。


「アイツほんと翔の事すきだなぁ」

「お節介な母親っす。でも有難い事なんすけどね。色々お世話になってっし、なんだかんだ言って沙世さん居なかったら今でもきっと荒れてると思うんで」


苦笑い気味に言葉を吐き出す俺に、哲也さんが柔らかく口元に笑みを作る。


「沙世に言ってやれ。喜んで抱きついてくるわ」

「いいっす」

「沙世もだけど、優香も電話する度にお前の事話してくるからな。翔がホストやり出したとか、NO1だとか、久しぶりに店に来たよ、とか。あー…最近では女できたよ、とか」

「…ゲホっ、」


思わずその言葉に飲んでいたノンアルが気管を間違えて流れ込んでいった。

そんな事、言わなくていいわ。と、思いながら未だむせ返って咳が止まらない。

そんな俺を見て哲也さんはクスリと笑った。