「ま、そー言う事だから。飯な」

「ねー、楓っ!?」


歩く俺の背後からミカの声が追っかけて来る。

答えず無視する俺に、ミカの小さなため息が漏れた。


「まぁ、いいけどさ。ねぇ、何処行く?」

「裏手通り外れたらなんかあんだろ。ってもこんな時間、居酒屋しかねぇけど」

「いいよ居酒屋でも」

「つかお前何でいっつも早朝なんだよ」

「あれ?言わなかったっけ、私キャバ嬢って」

「知らねぇよ。初耳」

「嘘。言ったよ、初めての飲み会の時に」

「そーだっけ」


記憶を辿っても、もうその日の事なんか思い出せない。

どんな話をしたのかも全く覚えてない。

と言うよりも、興味なく仕方なく着いて行った。の方が正しい。


「やっぱ話、聞いてないんだねー…楓つまんなさそうだったもんね。それでよくホストなんてやれるよねって思ってたし。顔はタイプだけど愛想わるって思ってたし」


そのサラっとディスってくる言葉に思わず鼻でフッと笑う。


「いや、そうじゃなくて営業時間とっくに終わってんだろーが」

「だって楓が飲み会の時、終わったら店で寝て帰るって言ってたからさぁー」

「記憶ねぇわ」

「ほんとどうでもいい事は覚えてないんだね」

「まず俺、他人に興味ねぇからな」

「それ、ホストが言う言葉じゃないからね」

「そりゃどーも」


ミカは呆れた様にクスリと笑う。


「だからそれ聞いてたから待ってるの」

「待ってるねぇ…俺待っても何もいい事ねぇっつーの」


呆れながらに口を開く俺にミカは口角を上げて俺の顔を覗き込んだ。


「あるよ。目の保養に癒し」

「は?意味分かんね。外見を保養にすんな」

「いいじゃん別に。世の女達はほとんどそうだよ?」

「めんどくせぇな、女って。…つか今思ったけど、俺金ねーわ。500円しか」

「え、500円?珍しいね。どーしたの?」

「まぁ、色々と」

「色々ねぇ…ま、私が払うからいいよ。その代り今度奢ってよね」

「はいはい」


裏手通りを外れた所にある飲み屋。

この時間帯からだと、24時間営業の飲み屋しか開いてはいない。


席に座ったと同時にミカはスマホを取り出し、真剣に向き合ってた。