酔うスピードが速いと感じたのは、早い時間からだった。
一発目のボトルが効いたのか、最後までの余裕っつーもんがあまりないと感じた。
席を何回移動したのか分かんねぇくらい回る。
指名が入る嬉しさ半分、面倒だと感じること半分。
気合を入れとかねぇと、すぐに落ちていくこの業界。
気分のらねーな…
閉店後、いつも通りに少し仮眠をとった俺は気怠いまま外に出る。
薄暗く、いまから夜が明けようとする空を仰いで、息を吐いた。
そしてポケットからスマホを取り出し、耳に当てる。
どれくらい待ったか分からない時、
「…はい」
小さいタケルの眠そうな沈んだ声が耳に届いた。
「おはよう」
「つーか翔さん…この時間帯やめて下さいっすよ」
「悪い」
「休むんすか?」
「あぁ。眠い」
「は?意味分かんないっす。俺も眠いっすよ」
「んじゃもう起きろよ。眠さ吹っ飛ぶだろ」
「もぅ何言ってんすか?てか、俺じゃなくて親方に電話したらいいじゃないっすか」
「こんな時間から掛けたら迷惑だろーが」
「はぁ!?俺も迷惑なんすけど」
タケルのため息交じりの声に悪いと思いつつも、思わず笑う。
「まーまー、今日の夜、休みだから飯奢ってやるけど」
「マジっすか?」
沈んだ声から一気に弾んだ声になるタケルに苦笑いする。
切り替えはえーな…
「夜、空いてんの?」
「当たり前じゃないっすか。埋まってても翔さん優先っす」
「いや別に優先しなくてもいいけどよ。つか、親方なんか言ってた?」
「なーんも。翔さんにはあまいからー…俺には厳しいのに」
「お前ふざけてばっかだからだろーが」
「そんな事ないっすけどー…ま、言っとくんで今日奢ってくださいよ」
「おー…じゃあな」
通話を切り、画面に現れたデジタルの時間に思わず苦笑いする。
時刻はもうすぐで5時。
そりゃ怒るか。



