「…つか、寒い。帰ろ?」

「うん…」


タバコの吸い殻を手に持ち、反対側の手で美咲の手を掴む。

必然的に立ち上がった美咲は未だ俯き、反対側の手には通帳。

その持っている手の甲で必死で涙を拭っていた。


車に乗り込んでも美咲は口を開く事無く、ただ俯くばかりで、俺はエンジンをかけて口を開く。


「どした?」

「あ、いや…」


戸惑うように呟かれた声。

手に持っている通帳に力が入っている所為か、少し、折れ曲がっている。


「みぃちゃんは何も心配すんなって。こっちの事は俺にまかせとけって。…って言っても俺じゃ頼りになんねぇかもしんねぇけどな」

「……」

「うん、でもまぁ…心配しなくていいよ」


何も心配はいらない。

何も心配いらねぇから、だからもうこれ以上、何も迷うな。

お前が迷うと、今度は俺が迷いだす。

俺がお前を引き止めたくなってしまう。

美咲が迷えば迷うほど、俺の感情までも乱されてしまう。


離れようと、離れようとするほど、近づきたくなる。

離れたくなくなる。

そう思う感情になる前に、何も迷わないでほしい。


どれくらいあの場所で佇んでいたのかも分からなかった。

日が少しづつ落ち始めてる所為か、来た時よりも寒さを感じる。


「みぃちゃん、何食べたい?」


まだ夕食には早い時間。

…17:25。

お昼も食べていない所為か、空腹に満たされる。

それは隣にいる美咲もだろうと思い、視線を向けた。