「悪りぃけど、俺は″行くな″とも″一緒に着いて行く″とも言わねぇ」


言った瞬間、チラッと美咲を見ると、目を瞑って視界を閉ざしていた。

その美咲から視線を逸らし俺は2本目のタバコを咥え、火を点けた。


美咲は何を考えているのかわかんねぇけど、俺はそこまでいい男でもなんでもない。

確かに俺は今まで美咲に縋りついて、美咲の事を離そうとはしなかった。

好きと言う感情があまりにも大きくなってて、手放したくないとも思った。


だけど、これ以上、美咲に縋りつく事も引き止める事も出来なくて、俺のこの存在で行かないと言うのは違う。

不安にさせたのは俺で、困らせたのも俺で、迷った所為も俺だと分かった今、美咲にしてあげられることは――…


「…待ってるから」


その言葉だけ。


「待ってるって…そう簡単には帰って来れない」

「いいよ」

「3年…ううん。5年は帰って来ない」

「それでも待ってる」

「待ってるって、私はそれを簡単な事だとは思わない。5年だよ?5年って月日は人の気持ちを変えちゃうんだよ?」

「俺は変わんねぇよ」


普通ってもんが変わるのであれば、俺は普通じゃない。

たかが5年。

されど5年。

俺は美咲が帰って来るのを待つ。

ただ、それだけ。


「私が変わってるかも…」

「だったらもう一度、みぃちゃんを奪いに行くから」


フッと口元を緩めて美咲を見るも、美咲は寂しそうに俺に視線を送った。

そしてその視線がゆっくりと俺から離れ、


「…でも、やっぱり行けない」


吐き出された声は切なさそうな小さな声だった。