「あれ?着替えてんじゃねーかよ」
出てすぐに流星の声に面倒くさそうに軽く頷く。
全身黒のスーツの俺を見つめる流星の顔は次第に笑みが漏れた。
「着替えたって事は今日チャンスなんじゃね?」
「は?…んだよ、それ」
全身黒で固めた俺は首に掛けてたネクタイを緩く結ぶ。
「おーい!今日、楓やる気失せてっから挽回するチャンスあんぞー」
右手を上げてホールに居る奴らにデカい声を出した流星に思わず顔を顰めた。
周りから軽快とも言えるような雄叫びが聞こえる。
その流星と雄叫びの声に思わず深いため息が漏れた。
「楓さんにはー…マジで、負けないっす」
NO2のルイが余裕の笑みを浮かべて口角を上げた。
「まぁ…頑張れよ」
勝ち誇ったように俺も同じく口角を上げる。
別にそんな余裕ねぇけど、こいつだけには負けたくない。
ルイより負けたくないと言う事は、当たり前に一位の座にいないといけない事になる。
だから意地でも勝つ気でいねぇといけない。
「「いらっしゃいませ」」
店が開店すると同時に響き渡るメンバーの声。
天井に向かって伸びをした俺は深く息を吐き捨てた。
「えー、どうしたの?今日は黒なの?」
席に着いた隣の女が不思議そうに視線を向け、俺の肩に触れた。
「黒のほうが良くね?」
「どっちも好き。ってかこの前、私服着てたの?」
「あ、そうそう。ツレと出掛けたままの格好で。着替えんのめんどくさかってな、」
「えー、見たかったぁー」
「なんか慣れねぇから、私服無理。スーツのほうがいいやろ」
「スーツって言うか、楓が着たらどれもカッコいいから好き」
「おぉ。ようわかってんなぁ」
「ねぇ楓。付き合ってよー」
「今、お前は俺の女やろ」
「もぅ、上手くかわしたやろ」
笑いながら俺の身体に触れてくる女に、居心地よくは感じなかった。
その訳わかんねぇムシャクシャした俺の心をあしらう様に、グラスに注がれたシャンパンを一気に喉に流し込む。



