美咲に言った通り、帰宅したのは昼過ぎ。
だけど美咲の姿は何処にもなく、俺はシャワーを浴び、冷蔵庫から取り出した水を口に含む。
暫くして不意に聞こえた着信音。
テーブルに置いたスマホを掴み、その画面に表れた諒也の名前に首を傾げた。
「はい」
「あー…翔さん?」
「あぁ。つかお前、調子どう?」
「すげぇいいっすよ」
「そう。退院は?」
「まだ何も言われてねぇっす。もうここ出てもいいんっすけどね」
「お前、無茶すっからまだ居とけ」
「暇っす」
「よく言うわ。お前、女と絡んでるって蓮斗が言ってたぞ」
「絡んでねぇし」
そう言いながら諒也の微かな笑い声が電話越しから聞こえた。
「で、なんかあった?」
「あー…翔さん今何処?」
「さっき仕事から帰って来た」
「美咲は?」
「美咲?あいつがどした?」
「ここに来た」
「そう」
「…てかさ、翔さん何かあった?」
「は?何が?なんもねぇけど。それがなに?」
「あー…うん。葵の事聞きに来たんだけどさ」
「うん」
「あいつ上の空っつーの?なんかよく分かんねぇんだけど…」
「まー…俺にも分かんねぇわ」
「あいつ、泣いてた」
「…は?なんで?」
「分かんね。アイツが言う訳ねぇじゃん。それ言いたかっただけ」
電話を切った後、思わずため息を吐き捨ててしまった。
泣いてたって、なに?
しかも諒也の前で泣くなっつーの。
美咲がここ最近ずっと悩んでいる事も、上の空だった事も分かってた事。
だけどそれを敢えて聞かなかったのも俺で。
そこに触れようともしなかったのは俺。
だけどこのままじゃダメだって事も分かってた。
寝室に入って、クローゼットの中の引き出しにあるそれを手に取ると、俺はスマホを掴んで耳に当てた。



