「はよーっす」


薬に手を掛けたその瞬間、後輩の軽快な声が耳を掠める。


「…はよ」

「楓さん、機嫌悪いんすか?さっき流星さんが言ってましたけど」

「アイツの事は信用すんなよ。デタラメばっかだかんな」

「おい、誰がデタラメって?」


ドアにもたれかかる様に流星は腕を付き、顔を覗かせる。

その流星の顔がまた面白そうに笑い、その顔に俺は眉を寄せた。


「お前だよ、お前」


そう言って口に含んだ薬を一気に水で流し込んだ。


「こいつさー、自分の苛立ちを俺に押し付けてくんだわ」

「え?苛立ち?何に?」

「女しかいねぇだろ」

「あぁ…そっち」

「お前さぁ…それがデタラメっつーの」


いてもたっても居られなくなった俺は、流星にため息交じりで吐く。


「別にデタラメじゃねぇし、お前の心にちゃんと聞いてみろ」


ここだよ。と、笑いながら俺の胸を拳で叩く流星の腕を軽く追い払う。


「うぜぇな、お前」


呆れながらにそう呟き、俺はその場を離れて別室へと足を運んだ。

そこで俺は着ていたスーツを脱ぎ捨て、新たに違うスーツに身を包み香水を吹きかける。


徐々に着る回数が減ってきた白。

今日はなんとなく着たくなかった。


白と言う何色にも簡単に染まってしまう白を着たくなんてなかった。


ただ俺には黒が似合う。

今思うと、白が似合うと言われて着ていただけで、その言葉に乗せられていたような気がする。