「やっぱ最後に楓に会って良かった」

「つか、そんな良かったって思える俺でもねぇしな。だって俺、全うな生き方してねぇし」

「病んでるね、相当」

「病んでるとか言うな」


ミカのマンションの近くに停車すると、ミカは俺に視線を向け頬を緩ませた。


「ありがとう。楓と出会えて良かったって、そう思ってる。元気でね」

「あぁ、お前もな。頑張れよ」

「楓もだよ。これからは全うした人生歩んでね」


ニコッと笑ったミカに俺は苦笑いで返す。

ミカが降りて、進んで行くタクシーの中、俺はぼんやりと窓の外を眺めた。

何が正しくて何が正しくない。とかなんて本当に分からなくて。

過ぎ去って気づく事も、過ぎ去って後悔する事も。

今は全く分からないけれど、ただそう思わないようにと今を大切にしたいって、そう思う。

って言っても、そう思うようになったのもお袋の死からで、改めてお袋の偉大さを感じた。

マンションに着き、リビングに入って嵌めていた時計をテーブルに置きながらネクタイを振り解く。

と同時にソファーの前のテーブルに散らばった本に足を進め視線を落とす。


…教科書。

英語の本にノートに参考書。


勉強していた形跡が無惨にも置かれ、その英文を見るも俺にはあまり分からず苦笑いが漏れる。

あいつ、マジ頭いいんだな。


一息吐いて、そのまま風呂に入ってベッドに寝転ぶ。

隣で眠ってる美咲は布団に埋まるように頭まで入っている。

少し布団を剥ぎ取ると同時に、俺は美咲の頭を抱えて抱きしめた。

何故か寝ている時にしか出来ないこの行動に情けない笑みが溢れ。

その美咲の温もりとともに俺は瞼を落とした。