「どした?」

「…うん、あのね。楓にはなんか報告しとこうかなって思って」

「報告?」

「そう」

「なんの?」

「うん。私ね、…キャバやめたんだ」

「へぇー…、え?なんで?お前、一番なるって言ってたのに」

「うん。…妊娠しちゃったから」

「はい?」


ビックリし過ぎたせいで一瞬意識が遠のいてしまった。

ハハッ。と笑うミカは寒そうに身体を擦り、深く息を吐き捨てる。


「やっぱどっか入ろ」

「いいよ」

「よくねぇわ。寒いし、冷える。ガキ身ごもってんだったら尚更」

「ありがとう。優しいね、楓」


俺の背後に飛んでくるその言葉に、「別に優しくねぇよ」そっけなく返した。

こんな時間に開いてるのは居酒屋しかなく、端の席で真向かいに座る。


「暖かーい」


外とは全然違う温もりにミカが頬を緩めた。

飲み物だけを注文し、目の前のミカは何故か寂しそうに視線を下げた。


「妊娠したって、あの付き合ってた人?」

「うん。…そうだよ」

「良かったじゃん、すげぇ好きって言ってたし」

「うん」

「どおりで最近、お前見ねぇって思ったわ。いつ辞めたんだよ?」

「2カ月前かな」

「へぇー…まさかお前が結婚するとは」


そう言った俺にミカは切なさそうに俺を見て笑った。


「してないよ。むしろしない」

「え?何言ってんの、お前」

「あの人さ、結婚してたの」

「は?」

「ずっと気づかなかったし、分かんなかった。妊娠してさ、言った途端、結婚してるって言われた」

「……」

「ほんっと、馬鹿だよねー…私。なんで気づかなかったんだろう」

「……」

「不倫してたって事。ほんと、馬鹿みたい。年齢的にそうかなって思ってたけど結婚はしてないって言ってたから」

「……」

「戸籍でも貰って確認しとけばよかったよ。結婚してたんなら付き合ってなかんかなかったのに…」



いつもの蔓延の笑みじゃないミカにそう接していいのかなんてよく分からなかった。