「はい」

「あんたさぁ、何してる?」

「もうすぐ仕事行く」

「じゃ今、家にいるんだ」

「だったら何?」

「私ちょっと帰ってきてんの。だから美味しいお肉と身体にいい野菜でも持って行こうかなって」

「は?無理」


思わず声を出してしまった俺に優香は、「は?」と低い声を返してくる。


「無理って何でよ?」

「だからもう来んなっつっただろ」


タバコの先端についた灰を灰皿に打ち付け落とし、もう一度咥えた。


「だから気を使ってこうやって電話して確認とってんじゃんか!」

「いや、マジいいから。勘弁して」

「はぁ?なにそれ。そんな拒否るって事は誰か居んの?」

「…そんなんじゃねぇから」

「あ、居るんだ」


ワンテンポ遅れて返した言葉に、優香はやっぱりするどかった。

何故かクスクス笑う優香に無性に舌打ちしたくなる。

短くなったタバコを灰皿にすり潰し、煙とともにため息を吐き捨てた。


「もー、誰も居ねぇから」

「じゃ行ってもいいじゃんか」

「無理。俺、忙しいから」

「家に居るのに?」

「もぉ、まじ勘弁して」

「じゃ明日にするわ」

「それも無理」

「じゃ明後日」

「無理」

「明々後日」

「無理」

「はぁ!?なにそれっ!あんた女、監禁してんの?」

「してねぇわ。人聞き悪い事言うなよ」

「ま、もういいわ。ママにそう伝えとくから」

「そんな事いちいち伝えんなや」

「伝えるわよ。弟の報告しとかないとママ心配するもん」

「心配される年でもねぇけどな」

「あんたが結婚するまでママは面倒見るって言ってたから」

「あー、はいはい。んじゃ、切るぞ」

「あ、ちょっと――…」


言いかけた優香の言葉を無視して俺は速攻電話を切る。

と同時に思わず深い溜め息を吐き出してしまった。

まじめんどくせぇな。


「出るんじゃなかったわ」


小さく呟き、またため息を吐き出してしまった。