…美咲。

掛かってきている相手は美咲で、その電話に出ようか一瞬躊躇う。

未だ頭が朦朧としてる中、美咲に対して掛ける言葉も何もない俺はただスマホをぼんやりと見つめていた。


「おい、出ろよ」


その流星の声とともに着信が切れる。

そのままマナーモードにした俺は再びポケットにスマホを入れた。


今、美咲の声を聞くと会いたくなって、問い詰めてしまう自分が居る。

何がどうなってんのか分からないこの真相を、俺は美咲に深く問い詰めるであろう。

それは俺自身がしたくなくて、今は美咲の声は敢えて聞きたくはない。


「お前、そんな好きなわけ?美咲ちゃんの事…」

「え?」

「もう諒也が関わったら美咲ちゃんしかいねぇわ。さっきの電話もそうだろ。なんで出ねぇんだよ、お前の事、心配してんじゃねぇの?」

「俺の方が心配してるわ」

「だったら出ろよ。意味分かんねぇわ、お前」

「なんつーか…追われて行く方が楽だな」


そう小さく呟き、苦笑いを漏らす。

今まで追われる側で、その楽さに俺は好都合になっていた。

追う側になった今、思うようにならない感情も何もかも、よく分からなくなっていた。


「まぁ、あれだな。お前、追われることはあっても追う側になった事ねぇからわかんねぇんだよ」

「……」

「それに今までとまったくタイプ違うしな。でもまぁ…お前にはそっち系のほうが合ってんじゃね?」

「……」

「なかなかそう言うサバサバ系はお前には近づいてこねぇわな」

「……」


馬鹿にした様に笑う流星に顔を顰める。

その言葉をどう言う風にとらえていいのか分かんねぇけど…


「強いて言うならあれだな、追う方が疲れるとかじゃねぇんだよ。お前がただ仕事と両立出来てねぇから疲れんだよ」

「…そんな事分かってるわ」

「いや多分お前の思ってる事と俺の考え違うから」

「は?」

「普通は両立出来んの。店にも女居る奴いんじゃん?みんな両立出来んだけど、お前の場合、今まで本気で好きになった事ねぇから両立出来ねぇんだよ」

「なんだそれ。俺は中学生かよ」

「今どきの中学生は本気で恋愛してっからな」

「は?なんなの、お前」


顔顰めた俺に流星はクスクス笑いだす。

そんな流星にため息を吐き捨て、顔を背け俺は目を瞑った。