仕事どころじゃなくなるほど何故か頭の中に美咲が過る。

無理やり引き止めてしまった事に、後悔などないが、俺の心の中はスッキリとは晴れなかった。


″もう…会うのやめよ″


そう言った美咲の言葉が本心なら、それに答えるべきだったのかも知れない。

だけど、俺の感情が言う事をきかなかった。


「あー…」


ふと思い出した事に思わず声を漏らしてしまった。

スマホを取り出し、耳に当てる。


「…はい」


暫くして電話に出た美咲の声が耳に届く。

なぜかそれだけで小さな安堵のため息が漏れた。


「おはよ」

「うん。おはよ」

「起きてた?」

「うん」

「みぃちゃん、まだ居る?」

「うん」

「ごめん。また居なくて」

「ううん」


なぜか切なさそうな美咲の声。

美咲と一緒に居れば良かったと思う反面、一緒に居ちゃいけない…と訳の分からない思いが交差する。


「言い忘れてたんだけど、ソファーの上に紙袋あんの分かる?」

「あー…うん」

「それ諒也が渡しとけっつーから…ってか、もしくは葵ちゃんか」

「…葵?」

「ま、とりあえず持って帰れよ」


用件だけ伝え電話を切り終えた後、

「翔さんっ、」

俺を呼ぶ声に後ろを振り返る。

ペットボトルに入ってるお茶を飲みながらタケルは口角を上げた。


「お前が来るとなんだか調子狂いそうだわ」

「はっ?なんすか、それ。元気が出るの間違いじゃねぇっすか?」

「元気はでねぇわ」


苦笑い気味で口を開く俺に、タケルは少しだけ眉を寄せた。と思いきや、


「いつ食いに行きます?翔さん、いつ休みなんすか?」


そう言いながら笑みを浮かべるタケルに思わずため息を吐き捨てた。