――…

どれくらい時間が経ったか分からない頃。

寝がえりをうったと同時に薄っすら目を開けた。

曖昧な意識。

その視界の先に見える美咲の姿が無い事に、更に意識が戻る。

身体を起して、一息吐き、髪を乱暴に掻き上げた。


帰った…んじゃねぇだろな。

そんな嫌な予感を振り切る様に、俺は寝室のドアを開けた。


廊下の先にある扉が開いたリビングは真っ暗で。

そこにたどり着いた時、無意識に深いため息が零れる。


帰った。…と思ったのは束の間、カーテンが微かにユラユラと揺れているのに気づいた俺は、ホッとした安堵のため息が零れ落ちた。

テーブルにあるタバコを掴み、そのカーテンを手の甲で開けると、その先には美咲が手すりに顔を伏せている。

もうすぐ夜が明ける時間だろうか…

真っ暗な暗闇だった空が明るくなろうとしていた。


「寝れねぇの?」


美咲の隣に行き、そう声を掛けると、美咲の肩が少しだけ揺れる。


「あ、うん…」


戸惑いの声と同時に顔を上げる美咲に俺は一息ついた。


「みぃちゃんさ、最近お母さんの病院に行ってないっしょ?」

「……」


急にそんな事を言った所為か、美咲は驚いた表情で俺に一瞬だけ視線を送る。


その瞳を交わし、俺は美咲に話す言葉を頭の中で選んでいた。

何をどう言っていいのかも分からず、俺を避けていた理由も、今までずっと気にしていた母親に会いに行っていないのも、俺には分からず、ただ美咲に伝える言葉をただただ選んでいた。

気を紛らわす様に、持ってきていたタバコを咥え、火を点けた。