「いいよ、ここで」


ここでって。そんなわけにもいかねぇだろ。


「だから聞いてねぇのかよ。俺が困るっての」


俺の所為で美咲が風邪をひいてしまったら、それこそ困る。

思わず吐き捨てたため息。

突っ立っている美咲の腕を掴んで、俺は足を進めた。


それに何も言わずについてくる美咲。

薄暗い明かりの部屋。

ベッドを目の前に、俺は「おやすみ」そう告げて部屋を出ようとする。

だけどその瞬間、ジッと見つめて来る美咲に首を傾げた。


その俺に慌てて首を振る美咲。

なんだよ。と言いたくなるほど見つめて来る美咲。

まるで寂しそうな子猫みたいに、何処行くの?という視線に俺は思わずフッと笑った。


どこも出掛けねぇし。

むしろお前を置いて、出ていけるわけねぇだろ。


「風呂」


そう言った瞬間、美咲の表情が緩んだように見えた。


シャワーを浴びた後、寝室に入る。

横向きに丸まる様にして眠りにつく美咲にホッとし、同じようにベッドに横になる。

なんかよく分かんねぇ疲れの所為か、俺の瞼は一瞬にして落ちた。