目の前のテーブルにあるスマホに手を伸ばし、画面を明るくする。
いつの間にか掛かっていた諒也に俺は折り返し電話をした。
「…はい」
「悪い。気づいてなかった」
「アイツは?」
「風呂入ってる」
「そか」
「どした?」
「葵と病院行って美咲のお母さんの洗濯物、持って帰ったんだけど、それアイツに渡してくんね?」
「あー…いいけど」
「翔さん、家います?」
「7時には出っけど」
「んじゃ6時半ごろエントランス前で」
「あぁ。つか美咲は行ってねぇの?」
「俺は先に帰ったけど、葵が来てねぇって言ってた。お母さん、すげぇ心配してるって。その洗濯物持って行けって事で」
「あぁ、わかった」
電話を切った後、俺は立ち上がりベランダへ出る。
やっぱり真夜中の空気は少し冷たくて、その風を吸い込む様に深呼吸した。
手に持っているタバコの箱から一本抜きだし、咥える。
火を点けて、俺はベランダの手すりに腕を置いて辺りを見渡した。
普段からあまりジックリと見る事のない景色。
真夜中の所為か明かりはあまりなく暗闇に包まれている。
ここに来て美咲が言った言葉。
″忙しかったから″
その言葉は一体なにに当てはまるんだろうと思った。
お母さんの所に行っていて忙しいと思ってたのは違くて、美咲は何に対して忙しいと言ったんだろうか。
ただ言っただけなのだろうか。
それがやけに気になった。
暫く経ってから中に入ると、美咲はソファーの上で丸まって横になっていた。
「風邪ひくぞ」
俺の声に反応した美咲は起き上がる事もなく、更に身を縮めて顔を伏せる。
「おーい、聞いてんのか?風邪ひくっつってんだろ?ベッド行けよ」
「いい」
素っ気なく返って来た返事に俺は小さく息を吐き捨て、
「よくねぇよ。俺が困る」
そう言って美咲の腕を勢いよく引っ張った。
必然的に立ち上がった美咲は俯いたまま困った表情を浮かべた。



