「じゃあ何ででねぇの?」
「忙しかったから」
「理由それだけ?」
「それだけ」
「そっか…」
そう呟き、俺は再び新しいタバコを咥え火を点ける。
背を深くソファーに付け、天井をぼんやりと見つめながら、ゆっくりと煙を吐く。
これ以上、深く聞く権利などない。
これ以上聞きすぎて美咲を困らせたくないと、そう思っただけ。
聞きたい事は沢山あって、問い詰めたい事もいっぱいある。
だけど、そこまで言ってしまえば俺の口は止まらず、逆に美咲に怒りを込めてしまうだろう。
そんな事はしたくはなくて。
ただ、美咲と一緒に居れたらいいと、そう思うだけ。
どう美咲に接したらいいのか分かんなかった。
言葉を考えても出てこなくて、言葉を選んでも出てこなくて。
自分自身にイラつく。
夜の店では簡単に吐き出せる言葉も、美咲の目の前だと何も出てこなく、言葉に迷う。
情けねぇな、俺。
ほんと、どうかしてんな、俺。
馬鹿みたいに、どうかしてる。
何度も吐き出してしまうため息が逆にうっとおしく感じる。
未だ少し残ってる酒が考えを邪魔して、苛立ちを深める。
「もう…会うのやめよ」
刻々と時間が過ぎ静まり返った空間に美咲の声がポツリと落ちた。
小さく、そして少し震えた声に俺は思わず顔を顰めてしまった。
確かに、会うのやめよ。と聞こえた美咲からの言葉。
ま、そうなるのも無理ねぇと思うけど。
俺も、そのほうがいいかもと、思った事はあるものの、手放す事は出来なかったからな。
なんでか分かんねぇけど。
女なんていっぱい居んのに、好きって言ってくる奴なんか山ほどいんのに、なんで美咲がいいのかとか。
追って来る女捕まえた方が早いのに、とか。
ひたすら考えたけど理由なんて分かんなくて、気づけば俺の頭の中には美咲しか居なかった。



