「…はい」

「あーっ、やっと出たぁー…」


明るい声が耳を掠めたと思えば、それが一瞬にしてため息に変わる。


「ごめん、誰?」

「ちょっと誰ってひどくなーい?って言っても、まだ店に1回しか行った事ないんだけどね」

「……」

「顔見たらさぁ、思い出すから迎えに来てよ」

「あぁ、いいけど。何処?」

「駅に居る」

「はいよ」

「ちょい駅まで行ってくるわ」


立ち上がってスマホをポケットに突っ込み、財布から一万円を取り出し流星の目の前に置く。


「足りなかったらお前出してて」

「あぁ。つか、誰か分かったのかよ」

「分かんねー、とりあえず会えば分かるってさ」

「へぇー…、ご苦労さん」


フッと鼻で笑う流星に背を向けて駅まで駆け足で行く。

これからネオン街に包まれようとする街に人が溢れだしてくる。

そのごった返す繁華街を抜けて、駅が見えた時、


「かえでー!!」


弾けた声が飛んできた。

蔓延の笑みで手を振る女。

あぁ、思い出した。見た瞬間でその顔が浮かんだ。

一か月前、やたら自分の名前をアピールしてきたシズカだった。


「おー、シズカ久しぶり」

「嬉しー!覚えてたんだー」


弾けた声で、俺の腕に自分の腕を絡ませたシズカは蔓延の笑みで俺を見上げた。

つか、あれだけアピールしたら無意識で覚えるわ。


「すぐ思い出した。てか今日は一人?」

「うん。楓を独り占め出来るでしょ?」

「お前、そんな俺がいいんか」


フッと鼻で軽く笑うと、「楓しかいないよ」蔓延の笑みで返してくる。

だけど、その笑みが何故か今の俺には心地いいものではなかった。