多分きっと。
その日の俺はいつもと違うかった。
今日の出来事を忘れるかのように酒を飲み、その酒の勢いを借りて、客の女を抱きしめ、好きと言われれば好きと返し、いつも以上にハイになっていた事は自分にでも分かった。
…それほど、忘れたい出来事だった。
「楓くん、私と結婚してよ」
「え、結婚?したらなにしてくれるん?」
「何って毎日、夜のお供してあげる」
「そっちかよ。そんな俺、体力ないし。アキやったら全然体力ある」
タバコに火を点けながら目の前に座ってるアキに視線を向けると、
「俺、めっちゃありますよ、体力」
そう言ったアキに女は声に出して笑い始めた。
「えー…だってアキくん早そう」
「ははっ、早そうって、」
思わず俺も声に出して笑う。
「はぁ?早くねぇわ。最近してねぇけど」
「お前のそんな報告いらねぇわ」
未だに笑う女とアキの言葉に、俺は苦笑いしながら突っ込んだ。
「今日な、凄い頑張ろうと思って来たの」
「え、なにを?」
「ほんとに楓くんの事好きすぎて死にそう。だからリシャール入れる」
「え、マジで?」
「うん。その金額で楓くんを買いたいです!」
「俺の事、買ってくれるん?」
「買いたい。好き」
「どした?いつもより可愛いな」
「いつも可愛いよ」
「うん、可愛いけど。今日は特別」
「抱きしめてよー…」
その言葉にギュッと身体を抱きしめると、同じく女の手が俺に回る。
頭を撫ぜると女はそれに喜び、俺は女が欲しがる言葉を囁く。
「楓さんにリシャール入りましたー!」
店内に響き渡るアキの声。
その言葉に釣られて周りの奴らがテーブルを囲んだ。



