「俺、もう行くわ」

「はぁ?なんなの?一方的に聞いてきて、それで終わりなの?」

「悪いな」

「もう、なんなのよっ、」

「じゃ、またな」


ミカに背を向けて足を進め、俺は沙世さんの店に向かう。


「あー…待ってたわよ」


そう言いながら差し出された時計。

その時計を腕に嵌めると同時にため息が不意に出てしまった。


「ちょっとなにぃ?人の顔見てため息吐かないでくれる?」

「沙世さんの所為でロクな事なかったわ」

「はぁ?なにそれ。なんで私なのよ!ここに来る途中、なんかあったの?」

「大ありすぎ」

「あら。何か知んないけど大変だったのね。でも翔くんが時計忘れなかったらそんな事になってなかったと思うけど」

「沙世さんが今日、来いっつったから。今度でもいいっつってんのに」

「ちょっと!私にキレないでよ!翔くん、昨日から苛々し過ぎじゃない?カルシウムが足りてないんだよ」

「また食いもんかよ」

「何かあったか知んないけど、ちょっと落ち着いてよ。大人げないわよ?」

「俺、まだガキなんで」

「ほーんとガキだねぇ…思い通りにならない事に苛立つなんてまだまだガキよ」

「はいはい。もう行くわ」


そそくさとその場から離れようとした時、「翔くん?」沙世さんの声に俺は足を止めた。


「言葉って、大事だよ。ちゃんと伝えたい事は伝えないと、伝わらないよ?」

「は?誰にだよ、」

「なんでそんな消極的になってんの?」


クスクス笑う沙世さんに一息吐き、俺は何も言わずに店を出た。

店と同じように美咲を扱えたらどんなに楽なんだろう。と思ったことはある。

簡単に抱きしめて、好きだよって、そう囁いて。

ただそれだけなのに、美咲の前だと何も出来なくなる。


もし出来たとしても、美咲は困るだけだ。