「どうしたの?珍しいね、楓がこんな所にいるなんて」

「え、あぁ…」


さっきの出来事で忘れていた。

今から沙世さんの所に時計を取りに行くことに。


「なーんかあった?」

「え?」

「ボーッとしてた。冴えない顔だねー…」

「……」

「男前が台無しだよ?」


俺の目の前にミカの顔がスッと現れ、ニコッと微笑む。


「なぁ、聞いていいか?」

「うん?なぁに?」

「金のためなら何処までできる?」

「えー、なにそれ。何の質問?」

「お前だったら身体売れる?」

「って言うか、なんでそんなブラックの話なわけ?」

「お前にしか聞けねぇからだよ」

「私にしか聞けない話がそんな重い話だなんて嬉しくないんだけどー…」


頬を膨らませて眉間に皺を寄せるミカは小さくため息を吐きだした。


「やっぱ重いよな…」

「って言うか、そんなの決まってんじゃん。お金必要だからだよ」

「金な、」

「だってさ、自分でどうにかしないと生活出来ない事だってあるんだよ?ただ稼ぐ方法が違うだけで」

「あー…」

「私の友達がそうだったからさー…」

「え、うん?」

「だから友達ね。借金あったから返すのに手っ取り早いって言ってたしね。だから好きな人居ても付き合えないって、ずっと言ってた」

「……」


手っ取り早い、か。

好きな奴がいても付き合えない、か。

あぁ、なるほどな。


「って、なになにー?なんのこと?なんか最近の楓、意味深な事言うよね?」

「そか?」

「そうだよ」

「例えばの話。俺が養うから俺の傍にいろっつったらお前どうする?」

「そんなの大概の女はオッケーするに決まってんじゃん。ずっと楓と居れんだよ?そんなの最高じゃん!そもそも楓の事、拒否る女なんか居るの?」

「それが居んだよなぁ…」

「え、なに?」


あまりにも小さくなってしまった声にミカが聞き直す。

アイツは他の女とは違うから。

俺がそう言ったところで、それに従うはずがない。

そう思うと何故か苦笑いが漏れた。