美咲と約束をしてから既に3週間は経とうとしていた。

休みが会わない日々で、なかなか会えそうにもない。

そんなに無理してバイトしなくてもいいだろ、と思いながらトビの仕事を終えた後、久々に美咲に電話をした。


「…はい」

「みいちゃん?」

「うん」


小さく呟く後に、ゴホゴホと聞こえる咳。


「え、もしかして風邪?」

「うーん…違うと思う」

「いや、完全に風邪だろ」


頻繁に聞こえる咳。

なのに風邪じゃないと言う美咲に何故か呆れのため息が出た。


「大丈夫」

「大丈夫じゃねぇだろ、その咳。薬は飲んだのかよ」

「バイト先で飲んだよ」

「はぁ?バイト?そんなんで行くなよ、休めよ」

「人いなくて…」

「いやいや、そこまで頑張る必要ねぇだろ」

「うん…でも、」

「なんか食べた?」

「うん」

「お母さんは?」

「仕事」

「なんか持って行ってやろうか?」

「ううん、いいよ。風邪うつるし」

「大丈夫、こうみえても風邪なんて何年も引いてねぇから。馬鹿は風邪ひかねぇってやつかな」

「なにそれ…」


クスクスと笑う声に交じって咳き込む声。


「まじ持っていくけど」

「ううん。大丈夫。飲み物とかあるし平気。ごめんね、なかなか予定会わなくて」

「そんな事より寝とけ。んで明日はバイトも行くな。わかったな」


強制的に言ったのに、美咲の声は「うーん…」と納得出来ないような渋った声。

その曖昧な呟きに絶対に行くだろうな、と直感で分かる。


「まじ行くなよ。で、治ったら電話してきて」

「分かった」


電話を切り一息吐く。

まじ信じられねぇ奴だなコイツ。

しんどそうな声してまで行くなっつーの。余計にバイト先に迷惑だろ。と、思いつつ美咲らしいと思い苦笑いが出る。

夏休み中と言うのに、毎日バイトってどんな生活してんだよ、全く。

お袋が亡くなるまでの自分の学生生活と比べると、どんなに自分が馬鹿だったのか思い知らされる。

美咲と出会って、当たり前だと思っていたことが、そうじゃなかったと気づかされたこともある。

だからと言って無理に休みを作ってもらってまで美咲と会おうなんて思わなった。

アイツはアイツの生活スタイルっつーもんがあって、それを俺が壊す事は出来ない。


それは俺も同じで、あの頃の自分は誰かに自分の領域を壊されたくなかった。