「あーあ…ほんっと百合香さん、良い人だったな。でもその数日後、百合香さん亡くなった。私があんなひどい事、言ったから。最後に話した言葉がそれだった…」
「別にお前の所為でもないだろ」
「そうだね、あの頃は百合香さんを殺したのはアンタだって、ずっと思ってた」
「……」
「…でもね、私の言葉だったんだって今は思う。親子の縁を切りなよ…なんて、百合香さんにとっちゃ最低最悪な言葉だったんだよね。その言葉を抱えて百合香さん、逝っちゃった…」
「……」
「最後に言われたんだよねー…翔を責めないでって。ほんとどこまでいい母親だよ。とか思っちゃったけどさ。翔を大切にして…宜しくねって、」
「……」
「あー…でも、ごめんね翔。私、結婚しちゃった」
エヘッと舌を出す優香に俺はため息を吐き出した。
だけど優香の顔は切なさそうで、俺から視線を避けた瞬間に目に光っていた滴が頬を伝っていた。
それを拭う優香から視線を外し、まだ余っている水を墓石にかける。
「で、結局お前のオチはそこかよ」
「だって百合香さんの約束守れなかったし」
「約束なんて何もしてねぇだろ。宜しくって言われただけだろ」
「そうだよ。その約束が何も果たせてなかったからさ。あんたの事、嫌いだったし」
「はいはい」
「でも、今はきっと百合香さん喜んでるだろうな。ま、アンタが人としていい奴かどうかは今になっても分かんないけどさ」
「お前なぁ…そう最後にいつもムカつく事付け加えんなって」
「それはアンタの今までの生き様だよ。で、百合香さんに感謝の気持ちぐらい伝えなよ」
「前に伝えた」
「ほら、今も言いなよ」
「つか、何だよお前。何様だよ」
「お姉様だよ」
「めんどくせぇ…」
小さく呟きフッと笑って背を向けて俺は歩き出す。
「あ、こら。逃げんなって。そう言う所、昔と変わってないわね」
「お前もな」
「何よもうっ!小さい時は、優香お姉ちゃんって言ってたじゃない。あの時は可愛かったなー」
「そんな昔話やめろ」
「もしかして照れてる?」
「照れるかっ、そんな事より飯食いに行くぞ」
「あれ?私も誘ってくれるの?」
「じゃ、一人で帰れば」
「無理よ。私妊婦だし」
進ませていた足を止め、俺は後ろを振り返る。
不思議そうに俺を見つめた優香がニコッと笑みを漏らし首を傾げる。



