「翔にも聞いてほしい事。だから連れて来たの」
「…なんで俺?」
「百合香さんに酷い事、言ったから。だから私も後悔してる。だから今更だけど今、謝った」
「それって俺が関係すんの?」
「あんたしか居ないでしょうが。まったく、困った息子だよ、ほんとに」
「……」
「生まれてくる子さ、男の子って言ったでしょ?だから絶対、アンタみたいにはなってほしくない。百合香さんみたいな母親になったとしてもアンタみたいな息子にはなってほしくない」
「あぁ、そうかよ。ってかここまで来て説教かよ」
「説教じゃない。説教じゃないけどさ、アンタには言っといたほうがいいかなって。どれだけ大事にされてきたのかって事を」
「そう言うの、沙世さんから散々聞いたけど」
もう散々聞いた。
もうこれ以上、聞く事ないほどに聞いた。
むしろお袋が亡くなってすぐの時、優香からも凄く聞いた。
なのに、まだあんのかよ…
「ママはママ。私はあたしでしょ?」
「で、なに?」
「百合香さんにさぁ…私、酷い事言ったんだよね。当時のだらしないアンタの事で」
「あっそう」
「当時のアンタはさぁ…何も周りが見えなくなっていて、馬鹿ばっかりだった。アンタが悪い事するたびに百合香さん、色んな人に頭を下げてたの知ってる?」
「……」
「知らないでしょ?百合香さん、必死だったよ。どんな育て方してんだって、怒鳴られる事もあったし、世間からして親が悪いって散々言われて。なのに必死で謝って」
「……」
「親が悪いって何度も言われて。そんなロクでもない育て方をしてって、母子家庭だからって。そんなの関係ないじゃん。だから私は百合香さんが可哀そうで仕方がなかった。あんなに頑張ってたのに…」
「……」
「だからさ私、百合香さんに言ったんだよね。親子の縁切りなよって…あんなの息子じゃないよって。居ない方がマシってね、」
「……」
「親子の縁を切って、施設に送り込みなよって」
「……」
「なのに百合香さん、優しく笑うんだよ。親子の縁なんて切れないよってね。切ってしまったら母親失格だからって百合香さん言った」
「……」
「世間からダメな息子だと思われてもいい。どんなに思われても私は翔の母でありたいっってね」
「……」
優香が切なさそうに口を開く目が次第に潤んでいくのが分かる。
初めて聞く優香の言葉が物凄く胸に突き刺さる。
そりゃそうなるよな。
優香の言う言葉が正しいよな。
母親一つで俺を育ててんのに、金のありがたみなんてなく、お袋から金を巻き上げてたんだから。
でも、それよりも、こんな俺の事をそんな風にまで思ってくれていたお袋に、もう一度でいいから会いたいと思ってしまった。



