「百合香さん、お久しぶりです」

「……」


お袋の墓の前で優香は口を開き、墓石の周りに落ちている落ち葉を拾いながら、淡々と口を開いていった。


「なかなか来れなくてすみませんでした。私ね、結婚したんです。で、お腹の中に赤ちゃん居るんです。もうすぐママになります」

「……」

「ほんと自分でもビックリなんですけどねー…」

「……」

「私、百合香さんみたいな優しいママになりますから。私にとって百合香さんは尊敬する人。これからもずっと好きでいさせて下さいね」

「……」


何言ってんだよ、コイツ。と思いつつも俺の瞳が少し涙でかすんだ様な気がした。

だから誤魔化す様に晴天をみ見上げ、軽く息を吐き出す。


「で、翔も連れて来たよ。ねぇライター持ってるでしょ?線香に火点けて」


スッと差し出された線香の束を受け取り、俺はしゃがみ込んでライターで火を点ける。

点け終わった頃には優香は綺麗に花を飾っていた。


「ん、」


線香を優香に差し出すと、それを受け取り線香立てに立てる。

それに続き、俺も線香を立てて手を合わせた。


″ごめん″

やはり出てくるのはその言葉で、それ以上何も言う事なんか見つからない。

失って気づくものが沢山あった事、今ではものすごく後悔する。

後悔が押し寄せて来ては、何も出来なくなり、自業自得だと更に後悔が伸し掛かる。


″元気でやってる″

ただそれしか言えなくて、言葉が詰まる。


ため息と同時に目を開けると、未だ目を瞑って手を合わせている優香は何を語っているんだろうと、思った。

沙世さん以上に慕っていたお袋との仲は俺が知らない以上なものだと実感させる。

ただ、ぼんやりと眺めていたお袋が眠る墓に、俺はゆっくりと水を掛けた。


「…私、百合香さんに謝ろうと思って来たの」

「……」

ポツリと聞こえてきた声。

滴り落ちる水から優香に視線を送ると、優香は目を開けゆっくりと立ち上がった。