「ねぇ甘いでしょ?凄くない?私」
優香が頬を緩めながら俺に問いかける。
「ま、まぁ…思ったよりは」
「でしょ?やっぱ発売しようかな?売れたらお金になるし、ちょっと良くない?」
「…いんじゃね?」
「ほーら、またアンタ適当発言だよ」
「お前ほんといつも元気だな」
「可愛いでしょ?」
思わずフっと鼻で笑った俺に、優香が眉間に皺を寄せる。
「なんで笑った?今」
「いや、馬鹿だなーって思ったから」
「はぁ!?殴られたいの?」
「あ、もう帰るんで」
もう一度、鼻でフッと笑った俺は、立ち上がってタバコをポケットに押し込んだ。
そんな俺に対して優香は顔を顰めたまま見つめてくる。
「あれー?翔くんもう帰るの?」
奥に引っ込んでいた沙世さんが顔を出すなり俺に声を掛ける。
「帰って寝るわ」
「なら送ってこうか?朝も仕事でしょ?」
「いや、休み。…タク拾う」
「あらそう。また来てね」
「……」
今度いつ来ようかなんて考えていない。
むしろ当分、顏は出さなくていいだろうと思ってしまった。
店を出てもう一度夜空に向かっため息を吐き出す。
あんな所にいたら夜が明けてしまう。
「…ったく、ガキ身ごもってんならさっさと寝ろよ」
小さく呟き、俺は何故が寂しそうに鼻で笑った。
思い出すのは過去の事。
優香に出会えば必然的に頭の中を駆け巡る。
俺の荒れていた中学と高校の私生活をもっとも良く知っているのはアイツだけで、正直、俺はアイツには逆らえない。
何度アイツに怒られた事か、何度アイツに説教をくらった事か、当時の俺は何故こんなにも関係ない奴に言われるんだとばかり思っていたが、それがようやく今になって分かりだした。
全部、全部、お袋の為だったと言う事。
お袋が亡くなってから気づかされたこと。
今になって後悔が押し寄せてくる。
その後悔がいつ俺の中から消えてくれるのかも、今はまだ何も分からなかった。



