「翔くんね、恋の悩み事があるんだって」

「は?んな事、言ってねぇし」


そう意味分かんねぇ事を言った沙世さんは面白そうにクスリと笑った。


「あんたに恋の悩み事ねぇ…。良かったら私が聞いてあげよっか?これでも恋のアドバイスは豊富なんだよ」

「つか、あったとしてもお前に相談しねぇわ」

「ちょっ、お前じゃない!優香様だよ、」

「はいはい。優香様には相談しないです」


″面倒くせぇな″

付け加える様に小さく呟き、火を点けたタバコの煙と吐き出す。


「って事は他に相談できる人いるの?毎日毎日、他人の相談に乗ってりゃ神経すり減らすでしょ?ねぇー…ママ?」

「そうそう。お客さんの話も大事だけど、自分の事も大事にしなきゃね。相談相手は必要よ?だから翔くん今日来てくれたんじゃないの?」

「言っとくけど、相談しに来たんじゃねぇから。相談することもねぇし」

「じゃ、私に会いに?」


優香は何故か嬉しそうに笑みを浮かべた。


「いや、つかお前居んの知らなかったし」

「まぁ何があったか知んないけど元気だしなよっ、ほらっ、」


優香の手からポンっと目の前に置かれたミカン。

そのミカンに俺は思わず鼻で笑う。


「相変わらずミカン好きだな」

「それ、私が作ったんだって」

「農家でもしてんのかよ」

「趣味です」

「相変わらずすげぇ趣味してんのな」

「まぁ食べてみてよ」

「これ酸っぱいやつだろ?」

「酸っぱくないし。翔には特別甘いやつ。ビタミンとっとかなきゃ美肌に悪いっしょ?」

「つか沙世さんもだけど、二人して健康オタクかよ」

「だって健康じゃなきゃ困るじゃない」


沙世さんがサラっと言葉にし、目の前で二人して笑みを浮かべながらミカンを頬張る。


「そうそう。そんな仕事してるとね尚更だよ。お酒に溺れてタバコに溺れて、この先心配だね、ママ」

「ほんとそうよ」

「…はいはい。ご心配どうもありがとうございます」


咥えていたタバコからため息と一緒に煙を吐き出す。

そして更にため息を吐き捨て、俺はミカンの皮を剥いた。