暫く歩き、CLOSEの看板を通り過ぎ裏手へと回る。
着いて、なんで来たんだろうと思ってしまった。
そう思ったのはきっと雨の所為。
降っていた雨がお袋と沙世さんを思い出させてしまっていた。
でも、この人に会うと何故か俺の心を沈めてくれる。
「…沙世さん、いい?」
カウンターでグラスを拭きながら片付けている沙世さんに一言声を掛ける。
「どうぞ。また久しぶりね。なんかあった?」
ビックリした反面、クスリと笑う沙世さんは何故か、俺の心を読み取る人だ。
「なんで?」
そう言いながら俺はカウンターに座り、タバコに火を点けた。
「ため息多すぎ。来て速攻、何度もため息吐いてるけど」
「そう?」
「そうね。それにこんな所に顔ださないでしょ?」
「沙世さんが来いって言ったから」
「今回は言ってないけど。あなたの意志で来たんじゃない」
「…そーっすね」
深く息を吸い込んで、天井に向かって煙を吐く。
「で?どうしたの?浮かない顔ね」
「そうでもねぇけど。ただ沙世さんに会いたかっただけ」
「あら、なんだか重症ね。良かったら、どうぞ」
目の前に置かれた赤い液体。
見るからにどうみてもトマトジュースに眉間に皺が寄った。
「だから俺、トマトジュース嫌いだって」
「胃にも肝臓にもいいのよ」
「知ってる」
「ビタミンもあるし美肌にもいいの」
「……」
「翔くん、寝不足でしょ?お肌、大事にしなきゃ」
「……」
「飲んで。早く」
「変なお節介いらねぇから」
「変な、とか言わないでよ」
咥えていたタバコを口から離し、とりあえずトマトジュースを口に含む。
その濃厚なトマトの甘酸っぱさが口の中に広がった瞬間、思わずむせ返った。
やっぱ好きにはなれねぇな。



