「リアには感謝してる」


そう口に出し、煙を深く空に向かって吐き出した。


「言ったじゃない。一番の楓じゃなきゃ嫌だって」

「そんなに俺の事、好きなのかよ」

「えぇ、好きよ」

「ありがと」


タバコを咥えようとした瞬間、リアの腕が俺の首に回る。

だから咄嗟にタバコを持つ手が口から遠ざかる。

上目使いで俺を見上げて来るリアから避けようとした瞬間、不意に塞がった俺の唇にリアの熱が込み上げた。


何してんだよ。と思いつつ、心の中で深くため息を吐き捨てる。

女はどうして、こうキスをすぐに求めてくんだよ。と思いながら未だ塞がった唇を俺は力づくで離す。


「まだ、したかったんだけど」

「好きだな不意打ち」


そう言って頬を緩めた。

今日が初めてって事じゃねぇけど、特に今日はそんな気分でもない。

いや、いつもそんな気分じゃねぇけど。


「だって楓からしてこないでしょ?」

「うん、しないね」

「あーあ、今日は冷たいのね」

「そうでもねぇけど…」

「じゃあ、別にいでしょ?私、楓の為に頑張ってんのに」

「だから言っただろ。リアには感謝してるって。お前は特別って」

「じゃ今日だけ特別にいいでしょ?」


待った。の瞬間もないほど俺の唇をいとも簡単に奪うリアに心の中でため息をつく。

こんな真夜中の街並みで、スーツを着た男と派手な女が唇を交わしてると、誰も見ないわけがない。


だけど俺にはただ憂鬱ばかりで。そんな頭の片隅に、何故か美咲が過った。

別にアイツと付き合ってねぇから、イケない事でも何でもない。

美咲は俺の女でもない。

だけど、俺の頭の中を支配していく美咲の顔に、


「悪い。酔いすぎて無理」


適当な言葉を吐き、リアの身体を遠ざけた。