「百合香が…。百合香がね、亡くなる前に言ったの。翔くんを残して死ねないって。私が死んだら本当に1人になっちゃうって」
「……」
「祖父も祖母も早くに亡くなってるから、本当に独りぼっちになっちゃうって。だから生きたいって」
「……」
「でも百合香は自分の死を分かってた。私に、翔を宜しくって。そう百合香が言ったの」
「……」
「だから、翔くんまで死なせるわけにいかないのよ。あなたが死んじゃうと、私どう責任とったらいいの?」
「……」
「百合香になんて言ったらいいのよ。だからお願い、ちゃんと病院に行ってよ」
「……」
見つめる沙世さんの瞳から一粒の涙が頬を走ったのが分かった。
手でその滴を拭う沙世さんから俺は視線を逸らし、窓側に目を向ける。
真っ暗闇に映るものはなく、ただ暗闇が広がる。
そんな沈黙した空気の中、俺はその答えに口を開く事も出来なかった。
「…百合香、待ってる。翔くんに会いたがってるよ。ちゃんと会いに行ってあげて。お願い」
「…あぁ」
もぅ、どれくらい墓に行ってないのか分かんなかった。
あそこに行けば思い出す。
だからそれを避けてたのかも知らない。
お袋が亡くなった瞬間すら知らなくて、お袋と話したのは亡くなる2週間前。
その会話も、金の会話だった事を今でも覚えてる。
入院してるお袋にすら全く会いに行かず男問わず女と遊びに暮れてた俺は本当に最低な奴なんだろうと。



