「よく言うわよ。翔くんだって、カッコいいのん乗ってるくせして」


そう言って沙世さんはエンジンを掛けた。


「あー…あれは飾り」

「飾り?」

「ほとんど乗ってねぇもん」

「え、そうなの?今日も車で来たんじゃないの?」

「だから急いでたから。車で来た時は酔いを醒ましてから帰んの」

「えー、あんなに飲んでちゃ酔いなんて醒めないでしょ?」

「分かんねぇけど、気分次第」

「ちょっと怖いわねぇ…。で、その置いてる車はどうするのよ」

「朝の仕事帰りに取りに行くって感じ」

「ふーん…。ま、でも身体に気をつけてね。仕事上仕方ないけど、それ以外は飲まない方がいいわよ」


チラッと視線を向けて来る沙世さんに、「あー…」と小さく漏らす。


「病院は?ちゃんと行ってるの?定期的に…」

「行ける時は」

「行ける時はじゃないでしょ?ちゃんと行かないと。もう百合香と同じ目に合わせたくないのよ…」

「……」


沙世さんは悲しそうな声で、小さくため息をつく。


「翔くんに死なれちゃ困るの」

「…別に死ぬ病気じゃねぇし」

「それ分かってて言ってるの?薬やめたら死んじゃうよ。肝臓に負担掛けすぎてんだから。言われたのよ、百合香に…」

「…え?」


あまりにも沙世さんの声が悲しそうで、俺は不意に沙世さんの横顔を見つめた。