「えぇーっ、息子!?」

「ホントですか?沙世ママ、凄いっ!」


案の定、今度は2人の大きな声が辺りを反響する。

つか、早く帰りてぇんだけどな。

ちらっと腕時計を見ると、もう時刻は3時35分。

睡魔もそろそろ限界に近づく。

だけど隣の沙世さんは眠さと言う言葉など知らず明るい笑みを漏らした。


「そうそう、息子なの」

「え、でもだって。楓…くん?」

「あれ?知ってるの?」

「だって凄い有名じゃん。それに沙世ママ、子供は娘って言ってたから」

「あー…うん。言ったらこの子、嫌がるから隠してたのよ」


ニコニコ笑う沙世さんが、マジでむかつく。

面白がってんじゃねぇよ。って言いたいけど、知らない2人の前で言えるわけもなく、ただただ視線を遠のいてた。

…眠い。

たらふく飲んだ酒にこの眠さ。

今日はまぢで堪える。


「えー、マジで沙世ママやばいんだけど。息子って…」

「この子を宜しくね」


何が、この子を宜しくなんだっつーの。


「あ、握手してもらってもいいですか?」


…え、握手?

と思いながら視線を向けると、目の前に2人の手が差し出されてて、「あ、いいっすよ」なんて俺は仕方なくポケットから手を出し、その2人の手に触れた。


「良かったねー」


なんて沙世さんの声に、思わず苦笑いと小さくため息をつく。


「ありがとう。凄い嬉しいんだけど」

「沙世ママの息子ってだけでテンション上がるー」

「そう?それは良かった。また店に行ってあげてよ。絶対、盛り上げてくれるから」


沙世さんはニコニコ笑って、親指を立てて俺を指す。

心の中で、舌打ちしつつも、口角を上げたまま軽く頭を下げた。


「ヤバいっ、!今度行こうかな」

「うん。行きな行きなー、皆誘ってさ。それじゃあ、もう遅いから帰るねー」


ヒラヒラと手を振って足を進める沙世さんに着いていく。

その背後から、「お疲れ様でーす」と弾けた声が飛んできた。