「急用」
「急用?なんのよ」
「なんだっていいだろ」
「そんな休むほど大切な急用だったんだ」
「そうそう」
軽く適当に流すと、沙世さんは「ふーん…」と言って、また面白そうに笑う。
ほんと面倒くせぇ。
ま、でも急用だった事は確かだし。
あの時間は無駄じゃなかった。
と思うと、不意に美咲が頭の中を過る。
あいつ、今頃何してんだろうと。
つか、当たり前に寝てるか。
「って言うか、自分の都合の悪い時だけ私を母親扱いしないでくれる?」
さっきまでの笑みをスッと消した沙世さんは今度は眉間に皺を寄せる。
「しかも、何なのよ!全然若くねぇとかさ、40過ぎてるとかさ、余計な事言わなくていいわよ!」
そんなヒステリックに再びなる沙世さんの肩を軽く揺すり俺は笑みを漏らした。
「まーまー、綺麗って言われたんだからいいだろ。ママは綺麗だから」
「だからねぇ、辞めなさいよ、その仕事用語!」
「別にそんなんじゃねぇし…」
「あれー?沙世ママ?」
不意に聞こえた声に向けると派手な女2人が沙世さんに向かって手を振っていた。
「あー、お疲れー。今まで居たの?」
沙世さんはさっきとは打って変わって表情を変え、手を振り返す。
つか、すげぇ変わりよう…
そして沙世さんが足を止めた所為で、俺の足も必然的に止まる破目になってしまった。
「そうなんです。ちょっと皆で店で騒いでて」
「へぇー…そうなんだ。もう皆帰ったの?」
「帰りましたよ」
「戸締りちゃんとしてくれてる?」
「完璧です。…ってか、沙世ママ?」
戸惑う様に落ちて来た声に、その女の視線が俺に向く。
「え、知り合いですか?もしくはお客さん?」
視線を泳がす2人に、
「あ、息子なの」
沙世さんの言葉に思わず小さく舌打ちした。



