「ねぇ、楓っ――…」


友達の声まで無視し言葉を続けたミカはそこまで言って一旦口を閉じ俺の隣に視線を送った。


「…え、もしかして同伴中?」


そしてミカは戸惑った様に小さく呟く。


「どーもー…」


なんてさっきとは打って変わって沙世さんは笑みを浮かべて軽くお辞儀をした。


「あー、違う違う。母親」

「えっ!?お、お母さん!?」

「そうそう、」


相当驚いたのだろうか。ミカは目を見開き声を上げる。

すると咄嗟に背中に物凄い痛みが走った。

それは沙世さんに肘で力よく叩かれた所為で、見ると沙世さんは顔を背けたまま不機嫌そうにした。


「えー、ホントに?若くない?」

「全然若くねぇから。ただの若づくり。40過ぎてるし」

「えー、見えない見えない。超、綺麗だし美人すぎ」

「あんた、後で覚えときなさいよ」


軽く、耳打ちされた俺は苦笑いしつつ、ミカに視線を送る。


「で、何?」

「あ、あぁ…ちょっと来て」


グッと腕を掴んで数歩進んだ先でミカは足を止めると、不安そうに俺を見つめた。


「ねぇ、小耳に挟んだんだけど、楓落ちてんの今?」

「あー…」


思わず思い出してしまった事にミカから軽く視線を外す。

つか、どこまで俺の情報が飛び交ってんだよ、と思い更にため息が漏れた。


「何で?」

「一日休んだら抜かされてた」

「はぁ!?何で休んだの?」

「まー、色々と?」

「色々?」

「そう」

「大丈夫なの?」

「つかお前が心配する事でもねぇじゃん」

「だって、あの楓が落ちるって相当な事だったからビックリして。あと一週間だよ?」

「だな」

「て言うか案外余裕だね…」

「そうでもねぇんだけど、ぶっちゃけ」


苦笑いで呟くと、ミカは大きなため息をついた。