「まだ薬飲んでるんでしょ?」


沙世さんの沈んだ声が耳に届く。


「まぁ…」

「いつになったら飲まなくていいのよ」

「酒飲む限りはずっと」

「だったら一生じゃない。禁酒なんて出来ないでしょ?」

「まー…」


小さく呟いて俺は握りしめていたグラスを口元に近づける。

そして、それを一気に飲み干した。


「マジまずっ。ちょ、沙世さん、水」


顔を顰めたままグラスを差し出す俺に、


「あら、偉いわね。ちゃんと飲んで」


まるで小さな子供みたいに扱う沙世さんに思わず眉間に皺が寄る。

そして頬を緩ませた沙世さんは俺の手元からグラスを受け取った。


「つか馬鹿にしすぎじゃね?」

「別に。…はい水」

「どーも」


さっきのコースターの上に透き通った水が置かれると、俺は一気に喉に流し込みトマトの味を消す。

なのにまだ完全に消えないトマトを消すためポケットから取り出したタバコを口に咥えた。


「ちょっとはタール数減らしたら?」


灰皿を置いたその手でタバコの箱を掴んだ沙世さんはそう呟きながらため息を吐く。


「沙世さんだって吸ってんだろ」

「私、もう辞めたし」

「へぇー…」


煙を吹かしながら天井を見つめた。

ここに来るのは1年ぶりだろうか。


それまでは良く来ていたけど、忙しすぎて来るのが億劫になっていた。


この人はいつまで経っても変わらない。

歳と言う言葉が全く当てはまらず、いくつになっても年齢を感じさせない。

母と同じ年だから、もう45歳なのに。

いや、まだ45歳か。


そう思うと、俺のお袋が生きてたらこんな感じなんだと。