「その法律破ったら、俺ホストやめるよ確実に。それでも良かったら」


それでも良かったら、リアを抱けるだろう。

決して愛なんてないけども。

そうやって今まで生きてきたし。

そうやって自分の心の穴に意味もなく誰かを埋めてきたのは確かだし。


「て言うか、ほんと喧嘩うるの好きね。ま、いいわ。それが楓よね」


そう言って身体をまっすぐに整えたリアはメニュー表を除き、指差す。

近くを歩いていたボーイに軽く手を上げ、「これ持ってきてよ」爪に真っ赤な色が塗られた細い指で、メニューを突いた。


「うぉーい、楓さんにドンペリ7本入りやしたー」


マイクで叫ばれた声に一斉に周りが振り返る。

他の客が入れても振り向かないのに、必ずリアが入れると周りが視線を送る。

それほどリアは凄い奴なんだって、思わされる程の女なんだと改めて実感する。


テーブルにドンペリピンクが運ばれると同時に、リアは鞄の中から取り出した70万をテーブルに積み重ねた。


シャンパンコールが駆け巡り、グラスに注がれる液体をリアは一口だけ口に含む。

酒に弱くはないリアだけど、それ以後はなぜか全く口を付けなかった。


時間が経つごとに頭が重くなる。

最近調子悪い挙句、酒もそれほど飲んでいなかった。


なのに昨日、行ってなかった反動の重みで次々入る大量の酒が物凄く回る。

リアが来る前に数本飲んだ酒。そしてリアが出したドンペリのボトルをそのまま秒殺飲みしたからだろう。


そんな中、リアが居る間にも俺を指名する客は絶えず、こめかみに痛みが走る。

次々に回る席でのお酒がいつも以上に気分を悪くさせていた。

たった一日休んだ事に、思わず呆れのため息が出た。