「そんな事ねぇよ」

「どうだかね。私が来たって情報くらい耳に入ってたの知ってるくせに電話一本もよこさないんだ」

「電話じゃなく、会って話そうと思ってたから」

「へぇー…」

「誰かにボトル開けた?」

「開けるわけないわよ。楓、意外と飲んだって楽しくないでしょ?」

「分かってるね、お前は」


″で、どうしたら機嫌直る?″


付け加えるようにして、リアの頭を軽く撫でる。

その行為にリアの頬が少し緩んだのが分かったが、


「じゃー、抱いてよ」


意地悪そうにクスリと笑って口角を上げたリアに、俺の手が止まった。

そのリアの頭からゆっくり手を離し、俺はフッと頬を緩ませる。

リアが言う抱くと言う意味は、ここで抱きしめると言う意味じゃないくらい分かる。

だけど、そう分かっていながらも俺はリアを抱きしめた。


「私が言ってるのはこれじゃないんだけど」


案の条、リアの口からは想定内の言葉が吐き出される。


「あ、違うかった?」

「私が言ってるのはセックスのほう」


その言葉で俺はフッと息を短く吐き捨て、俺は抱きしめているリアの身体を離す。


「まー…ホスト辞めたら抱けるよ?」


入った当時から決めていた事。

絶対に抱かないと。

抱きしめ合う事、不意打ちのキスはあっても、ホストの自覚がある以上、客の女は抱かない。

手を出してしまうと、そのまま快楽に落ちそうだから。

今までずっとそうだった俺だからこそ、そこに溺れるわけにはいかない。

それを理由で俺の空いた心を埋めたくはなかった。


それイコールで、NO1にはなりたくもねぇし。


「やっぱ相変わらずよね。まぁ、辞められちゃ困るから、いいけど」

「……」

「でも、あの子なら平気よね」


クスリと笑うリアの視線が徐々に俺を通り越す。

その先を見つめる視線は二つテーブルを挟んだ向こうに居るルイだった。