軽やかにフロアを回り、優しい笑顔と共に水のピッチャーを運ぶ徳永先輩が、白い馬にまたがっているように見える。ああ、頭に冠、背中にピンクのバラまで見えちゃう。

 お客さんの目も当然ハート。

「おい、ぼうっとしてないでお水くらい、お前が持って行けよ」

「は、はい!」

 いや、今の私がお水を持って行ったら大ヒンシュクだったと思うけどな。

 とりあえず、今日の私の仕事は、いらっしゃったお客さんにお水を出すことと、帰られた後のテーブルの上を片付けることだった。

 とは言っても、どのお客さんが今入ってきたのか、帰られたのかわからない。

 お願いお客さん、片付けてないテーブルに座らないでよ。

「西口さん、2番と8番の席片付けて」

 徳永先輩、にっこり笑ってテーブル番号で言われても、まだ覚えてないし……!

「あの席だよ。早く片付けて来い!」

「はい!」

 私が小野田先輩に怒られている横で、にこにこしている徳永先輩。

 もう助けてくれないのね、王子様。