食事を済ませた私達は、透のマンションへと帰って行った。
芳樹はお腹いっぱいご飯を食べた後だけに眠そうにしていた。
「よぉーし、芳樹、一緒にお風呂に入るか?」
「うん!」
芳樹と少しでも父子として過ごせるように、一日も早くそうなれるように努力しているのだろうか。
初めて我が子と知らされた時に比べ、芳樹を見る目つきが変わってきたのは確かだ。
我が子を見る愛おしい目をしている透を見るのがとても嬉しい。
嬉しいが、このままでいいはずがない。
私は何時までもここにいるわけにはいかない。
買い物袋を片付けると、リビング隣の和室に芳樹の布団を敷いた。
畳に座り込み周りを見渡すと和室続きのリビングにある小物が目に入ってしまう。
婚約者のことを思い出させるような代物をいつまで飾っておくつもりなのだろう?
透は婚約破棄はしたものの忘れるまでに時間がかかっているのではないかと思えてしまう。
「加奈子!芳樹がそっち行ったぞ!」
「あ、はーい!」
今はクヨクヨしてもしょうがない。
それに、私は透のプロポーズを断ったのだから。
そんな私が透の部屋のモノをどうこう言う資格はないのだから。
「ママ!」
透とのお風呂が楽しかったのか元気よく走りながら和室へとやってきた。
体は透が拭いてくれたようだが、素っ裸で気持ちよさそうに走り回る。
「こら! 芳樹、洋服着なさい!」
「やーだー やーだー!」
自宅アパートでは考えられない行動を取る芳樹。
お風呂場から駆けっこでもするかのように元気に走りまわる。
こんな芳樹の表情を見るのは逆に辛くなる。
両親が揃うとこんなに芳樹は生き生きとしているのだと。
どんなに日頃芳樹に淋しい思いをさせているのかを思い知った気分だ。



