「お前大丈夫か?」


「大丈夫なの?!」


あの岩下君や坂田さんまでもがこんなに心配してくれる。


坂田さんはこれまでもそうだったからあまり気に留めないが、岩下君が私のことに首を突っ込むなんて意外だ。


岩下君までもがこんなセリフを言うということは、昨日、皆の間では相当な噂が立っていたことに間違いはなさそうだ。


それが逆に気になってしまうのだが・・・


「それで、田中君怪我はないのかね?」


一応部長も心配はしていたのね。


「いったい皆さんどうしたんですか?」


そうなのだ。


仕事もそっちのけでこんな平社員のしかも一番の末端社員のことで話が盛り上がっているとは。


「昨日ね、専務から聞いたのよ。例の極悪非道の田中さんを捨てた男が見つかったって。」


何も事情を知らない蟹江さんは、心配そうな顔をして私の顔を見ていた。


私を捨てた極悪非道の男が見つかったと、透は自分で自分のことをそう言ったのかしらね?


あり得ない話だと思うのだけど・・・


多分、話がどこかで食い違って皆がそう思ったのかもしれない。


透が自分のことをそう説明するはずはない。


「そんな男危ないだろう?! 俺が田中さんを守ってやりたいけど24時間守のには無理があるし。でも、大丈夫だからね! 田中さんを守るのは俺の役目だから!」


「江崎さん、どうどうどう」


相変わらず江崎さんは興奮しっぱなしだわ。


それに、岩下君も・・・


そんな二人を横目に私の手を握り締めてきたのが吉富さん。


珍しく皆の前なのに行動的だ。これまでの吉富さんからは考えられない。


「専務にその極悪非道な男の対策を話していたんだよ。君を守る為に。」


「はあ」


「最低男は危険だろう。専務は黙ってよく話を聞いてくれたよ。」


部長、それは黙って聞いたのではなくて、何も言えずに黙り込んだだけと思いますが。


自分の噂がここまで酷いとは流石に思っていなかったでしょうね。


そんな話を聞かされて私がいかに透を恨んでいたのか感じ取れなかった?