社長室で倒れたことで透のマンションに一晩お世話になった私と芳樹。


私は、すっかり元気を取り戻して翌朝マンションを出ることができた。


この一晩の間に、これまでのたくさんの話をすることが出来たしお互いの気持ちも粗方伝えることができた。


透からのプロポーズはあったが、「はい、そうですか」とすんなり受けれるわけはない。


だから、朝、会社まで送ってもらったら私は透とは決別しなければならない。


そう思っている。


思っているのだけど、芳樹は透の息子とバレてしまったからには何か社長側からの動きがあっても不思議ではない。


透より、社長が今後、芳樹の人生にどう関わって来るのかそれが怖く感じる。


だけど、私は母親だ。


権力やお金には負けない。


絶対に、芳樹は私の息子なのだから私が育てる。


決意だけは固まっているはずなのに、何故かとても不安になってしまう。



「送ってくれてありがとう。助かったわ。」


会社の駐車場で車を降りると私は芳樹を保育施設へと連れて行き、透は社長室のフロアへと行くことになる。


会社内では、まだ、私たちのことは秘密にしたいからと透が保育施設へ芳樹に会いにいくことを断った。



自分の息子だから本当ならば自分の手元に置いておきたいと思う。


なのに、認知も育児も何もかも父親としての存在すら否定しようとする私は酷い女だろうか?


透に言わせれば私の方こそ残酷な女なのかもしれないわね。


「仕事が終わったら俺の所へ来いよ。」


「もう大丈夫よ。体調は悪くないわ。」


「ダメだ。俺が責任もって預かると医師と約束したんだ。 だから、まだ数日は俺の所に居てもらう。」


透の熱い眼差しには私は逆らえなくなる。


それに、医師の名を出すなんて卑怯だと言いたくなる。


でも、その卑怯なセリフがあるから私は透の言葉に頷くことができる。


私ってどうしてこんなに弱い女なのだろう。


決意なんてあってないようなものだわ。