「何故いつも上手くいかないんだ・・・・ 俺がいったい何をしたんだ。」
透は自分の思い通りに事が運べないことにイラついているようだった。
婚約の件にしても私と別れたことにしても、透にとっては本意ではなかった。
それでも、結果としては婚約を決めたのは透の意思であり別れたことも透の意思だ。
私にとっては本意であろうがなかろうが結果は同じこと。
フロアを下りていく透は、少々渋った顔をして商品管理部門へと行く。
ここで思い出したのが、自分がこの部署では「最低最悪、加奈子と子どもを捨てた酷い男」となっている。
そう判ってしまうとあまり行きたい部署ではなくなる。
かなりの冷や汗もののようだ。
「専務!!」
相変わらず慌てて専務のご機嫌とりをしようと必死の部長が出迎えた。
「田中加奈子の荷物はどれだ? 預かりに来た。」
「専務、こちらのデスクにありますが。」
「蟹江君、デスクから出してくれないか。」
私のデスクの前に立つ蟹江さんにバッグを引出しから取り出すように指示をだすと、透はあたりを見回していた。
商品管理部門の皆がそろって透を見ていた。
まるで物珍しいものでも見るかのように。
いったいどうしたのだろうか?と、不安が増していくような雰囲気だ。
蟹江さんが透にバッグを渡すと小さな年季の入ったバッグに、透は無言のまましばらくバッグを見ていた。
「荷物はこれだけか?」
「はい、そう思いますが。あの、彼女はどうなったんでしょう?」
「君が気にすることはない。田中君は気分が悪いそうだからこのまま帰す。君らは心配しなくてもいい。」
そう言うと透はそのフロアから立ち去ろうとした。
「彼女には息子がいます。」
吉富さんは息子がいることを伝えながら私との関係も伝えたかったようだ。
これまで何度も将来を共にしようと芳樹を一緒に育てていこうと言われた。
そんな間柄だと言いたい吉富さんのようだ。



