「加奈子」
甘く囁かれるその呼び方に、以前は体が震えるくらい嬉しかった。
甘い声に身も心も委ねてしまいそうになる。
けれど、今の透は昔とは違う。
「やめて」
透を押しのけようとすると力づくで抱きしめられ乱暴なキスをされる。
「よして!」
「加奈子!」
抑え込まれ触れられるその手が体の方へと延びていく。
甘いキスに体の奥から熱いものが込み上げてくる。
だけど、今は受け入れられるわけがない。
「加奈子」
何度も呼ばれるその声に体がどんどん痺れたように感じてしまう。
「ダメ!!」
私も透もすっかり芳樹の存在を忘れ自分たちのことに必死になっていた。
透は私を抱きしめようとし、私はそれから逃げようとしていた。
そんなやり取りを見ていた芳樹がいきなり大声で泣き出した。
「どうなさいました?!!」
芳樹の泣き声に秘書が慌てて社長室へと入ってくると、そこには、ソファーに押し倒された私と、その上に乗りかかる透の姿があった。
肌蹴た私の服装を見て秘書は真っ赤になり慌てて部屋を出て行った。
「ご・・・誤解よ!!」
「そんなに胸出して何が誤解だよ。」
「あなたが欲情するからでしょう!」
「あーうるせえ!! とにかく俺が荷物取って来るから大人しくここで待っていろ!」
透は気まずそうな顔をして社長室から出て行った。
秘書は透の顔を見ると会釈をして先ほどのことは見ていませんと言わんばかりの顔をされた。
「お荷物でしたらこちらで引き取りに参りますが。」
「いやいい、あの子を頼む。それから、彼女にコーヒーを淹れてやってくれ。」
そう言うと、透は商品管理部門へと向かった。



