「医師の診断通り安静にするんだよ。いいね。
もし、加奈子が倒れてしまったらどうするんだ?子供一人でなにができる? よしきのことも考えろ。」
そう言われると何も言い返す言葉がなかった。
私が意地を張ってアパートへ戻れば、もし、また倒れた時芳樹は一人になる。
きっと怖くなって泣き出すだろう。倒れた私を見て恐怖を感じるだろう。
そんなことがトラウマにでもなったら、そんな可哀そうなことはできない。
「分かったわ。今日はお世話になります。」
「それから今後のことを話しあおう。」
私を見る透の瞳は真剣そのものだった。
きっと、芳樹のこれからの人生にこの人は関わろうとしてくるはず。
その話し合いをしたいのだわ。
私は、この人とどう立ち向かっていけばいいのだろう。
芳樹は私の人生そのもの。
透には渡せない。何があっても、どんなに裁判を起こしても死ぬまで私は芳樹を手放さない。
その覚悟はできているつもりだった。
だけど、透を目の前にしているとその覚悟も揺らいでしまいそうになる。
「あの・・・私は、」
「倒れられたら困るんだ。あの子に悲しい思いをさせないでくれ。」
そんなこと言われたら私はますます透の言いなりになってしまう。
「荷物は俺が持ってくるから、君はここで待っているんだ。いいね。」
芳樹がいるから私の体のことも心配してくれるのよね?
これもそれもみんな芳樹の為。私の為じゃない。
だったら、どうして?
どうして、
「婚約破棄したの?」
「君が、結婚おめでとうって言ったからだ。」
「バカじゃないの?! 会社にとって大事な結婚なんでしょう?」
「会社にとってはそうかもな。でも、俺にとってはそうじゃない。」
だから? あれからもう3年も経っているのにまだ婚約中だったなんて。
相手の女の人をかなり怒らせたでしょうね。



