いつかウェディングベル


「ママに似ているのよ。」


私が目を覚ました時、透が芳樹を抱きしめていた。


自分が父親だと名乗り芳樹を愛おしそうな目で見つめていた。


そんな優しい目をして芳樹を見てくれるとは思わなかった。


父と子の対面に私は多少なりとも動揺はしていた。これから起こるであろう親権争いに。


「パパに似ているんだ。なあ、よしき。」


そう言うとまた芳樹を抱きしめた。


「抱きしめてくれてありがとう。芳樹も嬉しいはずよ。」


「この子を産んでくれてありがとう」


そんなセリフを言われるとは思わなかった。


だって、私や芳樹の存在は疎まれていると思ったから。


透には既に結婚した奥さんがいると思っていたから。




そう言えば、さっき、社長は変なことを話していた。透が長年の契約を破棄したと・・・


契約を破棄? 私に関係があるような口ぶりで社長は話した。


もしかして、契約って・・・・婚約のこと?!


でも、今更、もう関係ないのよ。私は私の人生がある。芳樹には芳樹の・・・


だから、


「あなたには関係ないわ。」


「俺の子だ! この子は俺の子だろ。」


「生物学上のね。それだけよ。迷惑かけたわね。私はもう帰るから。」


ソファーから起きると少しふら付きながら芳樹の所へと行く。


そして、この子は私の子だと言わんばかりに私は芳樹を抱きしめた。


「君は倒れた。今日は安静にするように医師に言われたんだ。そして、俺が君を責任もって預かると約束した。
今日は俺のところで療養するんだ。いいね。」


一方的に決めつけるのは相変わらずだ。


私の気持ちを無視して勝手に事を決める。


あなたに捨てられたときもそうだった。一方的に言われただけ。


あの時のことを思い出してしまう。


「ああ・・・」


そうすると、眩暈がして足元がふらついてしまう。