「俺は・・・・」
透は芳樹を見て動きが止まっていた。
初めてみる我が子にどう接していいのか分からないのだ。
「だから最低な男だと言われるんだ」
父親にそう言われて、商品管理部門で私の子どもの父親の噂を透は思い出していた。
『最低最悪の極悪人らしいですよ』
そう、みんなからはそんなセリフを言われていた。
「可愛い子じゃないか。
父親のお前より先に祖父の私が抱きしめるわけにはいかんだろ?」
透は私の手を握り締めながら芳樹の顔を見ていた。
我が子ながらどうしていいのか完全に分からないのだ。
透は混乱していたのだと思う。
決して我が子が可愛くないのではない。
「まま・・・・」
倒れて動かない私を見て芳樹は更に不安になっていく。
そして泣きそうな顔をしてベソをかきだす。
「おいで。ママは大丈夫だよ。」
泣きそうな芳樹を見てやっと透の手が動いた。
私の手を離すと、透は芳樹に手を差し伸べていた。
「おいで」
透の声に反応した芳樹はそのまま透の所へと行く。
近づいてきた我が子に胸が締め付けられるほどに愛おしく感じた透は思いっきり芳樹を抱きしめていた。
「おじさん、だれ?」
「パパだよ。君のパパだ。
名前を教えてくれないか? 君の名前はなんていうんだい?」
「よしき。ぼく、よしきだよ。2歳だよ」
「よしき。お利口さんだね。パパにそっくりだよ!」
透はやっと素直に我が子を抱きしめられた。
自分の子なのに何もしてやれなかった悔しさや、私が隠し通したことへの苛立ちが悲しみに変わっていく。
もっと早くに我が子の存在を知ることが出来たはずなのにと後悔してしまう。
そんな父子の対面を見届けると、社長はこの後の会議へ出席するために部屋を出て行った。
社長が部屋を出て行くことに気付かずに、透は芳樹をしっかり抱きしめていた。



