倒れた私に驚いた透は、私の所へと駆け寄るとしっかりと私を抱きしめた。
私の隣で泣き出した芳樹を見て社長が抱き寄せていたが、部屋へ入って来た秘書が芳樹の手を引き、一度社長から離すとしっかりと芳樹を抱きしめてくれていた。
社長は急いで医務室へと連絡し医師を呼び出した。
社長室はしばらく慌ただしかった。
医務室からの医師の呼び出しや子供の泣き叫ぶ声。
そして、透が私を呼ぶ声。
社長室は騒然としていた。
「過呼吸ですね。大丈夫です。あまり興奮させない様に気を付けてください。
もし、症状が改善しない場合は自宅で療養させて下さい。 自宅には誰が?」
医師の診断では過呼吸と言われた。
良くある症状なのだが、あまりの興奮に私は倒れてしまっていた。
「親子二人だけのようですが。」
透はそう言って私の手を握り締めていた。
「それは困りましたね。小さなお子さんでは、もしもの時が危ないでしょう。」
「大丈夫です。私が責任もって療養させます。」
透は私の顔を見ながらそう答えていた。
ソファーに寝かされたまま私は暫く目を覚まさなかった。
日頃の疲れもあってかそのまま眠っていた。
「仮眠室へ移したほうが良くないか? ここでは加奈子さんも体が休まらないだろう。」
「もう少しこのまま様子を見ています。」
透は私の手を握り締めたまま離すことはなかった。
「この後の会議だが、お前は彼女とよく話し合いなさい。」
「はい、分かっています!」
透はイラついた感情をむき出しにして父親に言い放っていた。
そんな透の姿が哀れに感じたのか、社長は眉間にしわを寄せ大きなため息を吐いていた。
「彼女を非難する前に、お前は我が子を抱きしめたいとは思わないのか?」
父親のセリフは透には痛かった。
我が子は可愛いだろうが、初めて見る子どもだ。
今は倒れた私の方が心配なのだろうか、しっかり握りしめる手は離れることがない。



