「これが落ち着いていられるか。もし、親父が気付かなかったら、俺はずっと知らないままだったんだ!」
透の言いたいことは分からなくはない。
だって、どうあがいても血を分けた息子なのだから。
でも、それなら私にだって言い分はある。
それに、勝手なこと言わないで欲しい。
あの時のこと忘れたわけないわよね?
「知らせるわけないじゃない。透はあの時なんて言ったか覚えているの?」
「あれは・・・」
「私とはただの遊びだって言ったのよ。自分は婚約者と結婚するのだから私とは二度と会わないって。
今後、何があろうとも私の顔は見たくないから透の前には顔を出すなって。
透は私を弄んで捨てたのよ!」
透からの冷たい目にどんなに私が傷ついたのか、透は知らないでしょうね。
遊びだと言われて二度と会わないと捨てられた私の悲しみがどんなだったか、
今の透には少しも判らないでしょうね。
「妊娠したのが分かって透に電話をしたのに一度も出なかったのよ。
それどころか、何度電話しても着信拒否されたのよ!」
妊娠で透が戻ってくるとは思わなかった。
それでもあの時はまだ透に期待していた自分がいた。
だけど、自分が愚かな人間だと知ることになった。
「それでも俺の息子だろ! 昨日だってその前だって俺たちは顔を会わせていたんだ。
知らせることは出来ただろう。」
何故そんな人にわざわざ知らせるの?
芳樹を取り上げられるのかも知れないのよ。
私は一人で芳樹を育てると決めたのに、
そんな透に言うわけないでしょう!!
「今更何言うのよ。私を捨てたのはあなたよ。身勝手にもほどがあるわよ!!!」
「加奈子?!!」
「君!!」
興奮状態が極限まで達したのか、呼吸をすることさえ忘れたかのような私の体は、そのまま倒れてしまった。
私は芳樹を手放したくない、だから、 倒れる瞬間まで芳樹を抱きしめたままでいた。
絶対に、私に何が起きても芳樹は離さない。



