いつかウェディングベル


静まり返っていた社長室、


私は芳樹を抱きしめ、社長は私達親子をただ無言で見ていた。


透はやっと我に返ったのかハッとした顔をした。


「何故、なぜ・・・隠した?! 加奈子?!」


いきなりの怒鳴り声だ。


これまで、透とは何度も顔を会わせた。


なのに、芳樹の存在は一言も話さなかった。


話せるわけがない。それどころか透に芳樹の存在を知られたくなかったのだから。


だけど、こうなっては芳樹を取られないためにも何とかしなくては・・・


「隠してはいないわ」


そう言い切るしかなかった。


「これまで何度も言う機会はあったはずだ!! だけど、お前は俺に何も言わなかった。
これからも言うつもりはなかったんだろう?!」


私が必死になって退職届を書いていたのだから、それを透は知っているのだから。


これ以上の誤魔化しは私には無理だ。


「会社を辞めて俺と息子を引き離すつもりだったんだろう?」


「透には婚約者がいたじゃない!」


そうよ、婚約者がいる。透には既に決まった女性がいたじゃないの!


なのに、そんな人に芳樹のことを言えるわけがないでしょう?


「俺の子だぞ。この子は俺の息子だろ!」


だって、もう、結婚したんでしょう?


だったら、芳樹の存在は疎ましいだけじゃないの?!


私の存在も、芳樹の存在も・・・・



私達親子は透とは住む世界が違うのよ。


だから、私たちは会わない方が良かったのよ。


「加奈子! 何とか言えよ!!」


もう、これ以上構わないで!  私と芳樹を放っておいて!!



「透、落ち着きなさい。」


社長の言葉に透は一度ソファーに座り頭を抱え込んでいた。


そして、拳を握ると自分の足を何度も叩いていた。