私の毅然とした態度に社長は満足したようだ。
「よろしい、君の判断は正しい。」
結局、社長にかかれば私なんて直ぐに解雇されてしまう。
そんな程度の社員だったし、今回の騒動の結末を考えるならそうなるのが当然だ。
「失礼してもよろしいでしょうか?」
会社を辞めると決まった以上、もう、透の目の前に居たくない。
一刻も早くこの場を立ち去り、この会社からも去って行きたい。
社長に私の存在が知られては、今、ここの保育施設に預けている芳樹の存在まで知られてしまう。
そんな危険は冒せない。
「だがね、困ったことが起きているんだよ。」
社長は私の顔を見ると真剣な目をして語りだした。
その表情に私は息を飲んでしまった。
「我が社にとって大事な契約を透が破棄してしまってね。」
それと私が何の関係にあるんですか?
専務が顧客と起こしたトラブルも私が原因だと言いたいの?
「ただでさえ数年間契約を伸ばすだけ伸ばして、先方を相当困らせていたのだが。
とうとう最近になってその契約を破棄してしまってね。
その契約がなくなっても当社の土台が揺らぐわけではないので困りはしないが。それでも、自分勝手な行動を取った透に手を焼いているところだ。
君はこれについてどう思うね?」
は? 専務として会社の為の契約を勝手に破棄したのが悪いのであって私には関係ないわ。
それに、それによって透の立場が危うくなってもそれは自業自得と言うもの。
私に意見を求められても何も言えるはずないし、関係のない出来事なのだから。
私に質問すること自体愚問というもの。
「私は部外者です。何も申し上げることはありません。」
そうなのだ。
私は、部外者。だから、社長にも透にも何も言えることはない。



